隙間。

そこに風の一つも吹いていれば、まだ静か過ぎずに済んだのだろう。何もない草原を想像してみる。空は自然な空の色をしていて、雲は無い。空色が地平の向こうまで垂れ下がっていて、そこから足許まで、そして私を通過してまた向こうの地平まで、ずっと若々しい緑が続いている。そこに私は一人で、自分の足で立っているのである。それが、自分の意思かどうかは分からなかった。ただ、私はそこに立って、そこにある風景を眺めている。そういった情景を想像する。
私がまずそこに感じるものは不安であり、その上位に位置付けられるものが恐怖である。私は怖くて怖くてたまらないのである。何が? その不明なことも、私を底の底へ突き落とす一つの要因であろうと思う。一体何が、私に永遠の夜をもたらすのだろうか。それを考える。
静かであった。誰もいない。そこには孤独があったのかも知れなかったが、私は幸せなことに、幾らかの、かけがえの無い友人や知人、繋がりの少なからずある人々のいることはあって、結局、本当の孤独に到達するなんていう神業を体現することなぞ出来るはずが無かった。私は涙を流さなければならなかったのだろうと思う。それが私の使命であり、私の示し得るとりあえずの感謝であった。
しかし、依然として恐怖は去らなかった。どこまでも私を追ってきた、否、私と共に在ったのであろう。まるで自信の影のように、私の弱さを写し取ったようにして、時に大きく膨れ上がって私を飲み込もうとしながら、しかし寸前でその手を止めて、そうやって私を恐怖の淵に立たせながら突き落とさずに、尽きることの無い断続的な恐怖を私に与えて楽しんでいるのである。
私にはまたしかし、光があることも忘れてはならなかった。その光のまばゆさ、温かさ、慈愛、慈悲。私はそれを失ってしまうことを恐れていたのかも知れない。なるほど。全ては喪失への恐れであった。追ってくる現状や責め立てる日常がその正体ではなかった。喪失。全てはそこに繋がっていたのであり、それがこの不安や恐怖の底であった。