ある夜2。

夜は更けてゆく。夜というよりは、もう朝に近いのだろうか。もうしばらくすれば外は明るさを持ち始め、鳥の鳴く声など聞こえ始め、往来を通る自動車の量が増え、騒音が増えるのである。やはり私は退屈せずに済む。さまざまの音が私を刺激して、通り過ぎてゆく。とても即物的である。耳に届いた時点で、鼓膜に当たった音は内耳に伝わり、そこで電気的な信号に変わる。もう空気の振動ではないのである。音はどこかへ行ってしまった。それでも、私の中には音が残る。ややもすれば、それは永遠に私の中に刻まれてゆくのである。即物性と永続性の連続。
空気の振動であるところの音は、聞こえて初めて音なのであり、聞こえなければそれはただの空気の振動であるけれども、ある種の空気の振動は音なのであるから、そう考えてゆくと出口の無い森の中に入っていってしまうのである。簡単なことだ。出口の無い場所にも入り口はある。